前に書いた記事から、3週間以上経ってしまった。
一応、週一くらいで更新していきたいとは思っているのだが、特に週末に余裕がないとなかなか難しい時もありそうだ。
言い訳をさせてもらうと、先々週は出張で潰れ、先週は残業続きの疲労を回復するのに休日を費やしてしまった。すべて労働が悪い。
というわけで、今回は熊倉献先生の『ブランクスペース 1』。
※本ブログは作品のネタバレを含みます。
初出は2020年にWEB上で配信されたものらしい。
世に出てから少々時間の経った漫画で、すでに続巻も出ているが、まあ個人的な感想を書くだけなので、あまり気にしないことにする。
(なお、第4刷のオビでは『このマンガがすごい!2022』でオンナ編第6位にランクインしたことを謳っている。この順位がどれくらいすごいのかはよく知らない)
あらすじ
本作は、狛江ショーコ、片桐スイという二人の女子高生を主人公に展開していく物語である。
ショーコは運動はできるが勉学はあまり振るわず、年頃の少女らしく恋に恋するごく普通の少女。
そしてスイは、ショーコと対照的に本の虫で成績はよいが、これまた別の方向性で日々思い悩むごく普通の少女だ。
スイには「空白」の物体を作り出すことができる特殊な能力があった。
具現化系能力者、といえば分かりやすいだろうか。彼女曰く「想像のなかで部品を組み立て、現実に引っ張り出す」にだという。彼女が作り出す「空白」の物体は目に見えないが、触れることはできるし、動かせば音も発生する。「空白」のトースターを使ってパンを焼くこともできる(ちゃんと焼き上がりを知らせる音も鳴る)。
だが何でもできる万能の超能力ではなく、制約もある。
一つには、それを作り出すスイ本人が、その仕組みをちゃんと理解していなければいけないこと。何で出来ているか分からなかったり、なぜ動くのか分からないものは作ることができない。スイはこの制約をクリアするために、図書館にこもってさまざまな本を読み漁っている。
さらにもう一つは、スイ自身、この能力を完全に制御できているとは言えないこと。たとえば作中には、スイが緊張したりイライラしたりしたとき、無意識のうちに「風船」が作られてしまう、というシーンがある。スイの思い通りになる便利な力、というよりは、スイの内側にある何かから発露するアンコントローラブルな力、といった方が相応しいだろう。
ともあれ、この不思議な能力をきっかけとして、ショーコとスイは出会い友情を育むことになる。しかし幸福な時は長く続かず、クラス替えによって別々のクラスになったことで、二人は徐々に、だが決定的にすれ違い始める……というのが1巻の大筋になる。
感想
さて、少なくとも1巻の時点では、物語はもっぱらショーコとスイという二人によって進行する。
ただ、ショーコは「読者の目線」として設定されたキャラクターで、ストーリーの中心軸はスイにあると言えるだろう。クラス替えの後、いじめ行為の標的に選ばれてしまったスイが鬱屈した感情を蓄えるにつれて攻撃性を増していくことから、物語は動き出すのだ。
彼女の内側に渦巻くものを、我々は窺い知ることができない。彼女は文学を好み、作中でも彼女の心象表現として石川啄木や西東三鬼の(決して朗らかとはいえない)短歌が引用されるが、彼女自身の言葉で語られることはごくわずかだ。私の目には、スイは「自分では持ち合わせていない言葉を借りるために」文学を好むタイプの人間に見えた。
したがって、我々は断片的な引用と、端的な行為から彼女の心情を推し量るしかない。あくまで印象ではあるが、スイが抱える感情は、そうした表層に現れているよりもはるかに影濃く根深いのではないかという気がする。
とはいえ、1巻はまだ起承転結の「起」よくて「承」くらいしか描かれていないだろう。1巻の引きはなかなか続きを読みたくなる仕掛けが光っていて、シナリオ全体の構成力もかなり期待できるような印象を受けた。今の時点で適当なことを言うのもかえって憚られるので、今回はこの程度で終わらせておきたい。
3巻まで出ているそうなので、今度書店に行ったときにでも買うことにする。