砂浜始終管見

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森下みゆ『尾守つみきと奇日常。 2』

 ふと気づいたら、前回の更新から半年以上経っていた。

 というより、半年ほどまともに漫画を読んでいなかった。これもそれも何もかも労働ってやつのせいなんだ……。

 

 しかし、先日の異動で晴れて最ブラック部署から最ホワイト部署に移ったので、これからは多少読む時間が取れそうな雰囲気がある。高さを増す一方の積み漫画タワーをようやく崩せる……かもしれない。

 

 今回はリハビリを兼ねて、肩の力を抜いて読めそうな作品、『尾守つみきと奇日常。』だ。

森下みゆ『尾守つみきと奇日常。』小学館、2024年
「ヒロインの名前+と」のパターンは割合珍しい気がする。

 

 私には珍しく、少年サンデー掲載の少年漫画である。

 別に避けているわけではないのだが、年々趣味がニッチレーベルに偏っていっているので新鮮だ(少年誌は刊行ペースが速くて関数が膨らみがちだという事情もある)。

 

 とりわけ、学園ラブコメというジャンルはかなりなじみが薄い。近年だとちゃんと読んだのは『僕ヤバ』くらいだろうか。人並みの学園生活も人並みの恋愛もしてこなかったので、読者の共感ありきで成立している作品は「フーン」で終わってしまいがちなのだ。

 

 

 さて、本作はいわゆるボーイ・ミーツ・ガールの系譜上にある作品である。

 中学校の人間関係をリセットするために家から遠く離れた景希高校に通う主人公・真層友孝が、やや破天荒な少女・尾守つみきとクラスメイトになるところから話は始まる。うん、オーソドックスで良い。

 そして、本作のもうひとつのジャンルは、いわゆる「亜人もの」だ。

 角が生えていたり翼が生えていたり―――作中では「幻人」と呼ばれるが―――そういう多様な人々が社会に溶け込んで生活している世界が舞台になる。表紙の通りヒロインのつみきも幻人の一種であり、ウェアウルフだ。

 

 したがって、本作は「友孝とつみきの関係」と「人と幻人の共存」の2本軸で展開していくことになる。どちらかと言えば前者がメインで、後者がサブとして効いてくる感じだ。後者はちゃんと扱おうと思うとかなり重いだろうから、程よいバランスではないだろうか。

 

 全体の感想としては、やや予定調和的、言い換えれば「きれいすぎる」ように感じなくもないが、ラブコメとして過度にストレスを感じず読むためにはちょうどいいと思う。

 サブキャラもそれなりに立ってはいるが、結局はメインヒロインであるつみきのことを好きになれるかどうかという一点に読者の評価が委ねられているところも、作品としてのスタンスが明確で好感がもてる。ちなみに私はつみきの顔はかなり好きだ。

 

 

 それにしても、先に書いた通りラブコメはあまり熱心には読んでこなかったのだが、思っていたよりもしっかり芯がある。

 ここでいう「芯」とはおおむね「テーマ」と同じ意味だ。ラブコメにおけるテーマとは、私が思うに、物語の中心になる二人が「互いにとってどういう存在であるか」といえるだろう。

 たとえば、本作の主人公である友孝は、底抜けに善良で気が利くがやや鈍感、という主人公の器たる気質を備えているが、一方で気が利くあまり自らを殺してしまう嫌いがある。それが度を越し、「一体自分が何を望んでいるのか分からない」という状態から物語が始まるのだ。そんな友孝が、自我の塊のようなつみきと出会うことで少しずつ変わっていく、本作はそのプロセスを楽しむ作品でもある。

 友孝にとってつみきが一歩を踏み出す力を与えてくれる存在だとするならば、果たしてつみきにとって友孝はどのような存在なのだろうか。2巻の段階ではまだそこまでは見えてこなかったが、今後も続いていけば描かれていくことになるだろう。

 

 めでたいことに、本作は「次にくるマンガ大賞2024」のコミックス部門で3位に入ったらしい。マンガ大賞は追っていないのでこれがどの程度の評価なのか判断がつかないが、それなりに人気があるということだろう。もう少し二人の行く末を見守ってやりたい。